研究概要 |
本研究の目的は,書き言葉を多角的に分類するための基本的な指標を,コーパスに基づく探索的分析を通して構築することである。本年度は,昨年度実施したテキストに対する印象評定実験(以下,予備実験)とその分析結果を受け,以下の三つを実施した。 1.評定実験A:予備実験の結果,テキストに対する印象形成に三つの分類指標「スタイル」「文構成の明晰性」「抑揚・リズム性」が関わる可能性のあることが分かった。これらの指標の妥当性を検討するため,被験者を3名から30名に増やした上で,予備実験と同種の実験(テキストの印象評定に関わる20の評定語対に基づくSD法による5段階の評定実験,サンプル数40)を実施した。その結果,予備実験と同じ三つの指標が抽出された。 2.評定実験B:評定実験Aにより三つの分類指標の妥当性が確認されたことを受け,サンプル数を40から300に増やした上で印象評定実験(三つの指標ごとに選択された二つの評定語対,計6対に基づくSD法による5段階の評定実験)を実施し,下記3のための分析データを作成した。 3.指標に関わる言語特徴の検討:評定実験Bにより作成したデータに基づき,各指標にいかなる言語特徴が関わるかを検討した。具体的には,文章の特徴を捉える上で関連が深いと考えられる言語特徴(品詞や語種など単語に関わる特徴量5種,文末の種類や文長など文に関わる特徴量8種,計13種)を先行研究・予備調査を踏まえて選択し,各指標との関係を分析した。その結果,指標毎に特徴的な言語傾向を有することが分かった。この結果は,三つの指標によってそれぞれ異なるタイプ・文体の書き言葉が分類されていることを示唆するものであり,書き言葉を多角的に分類する指標を探索的に構築するという本研究の目標に対しある一定の成果が得られたと言える。
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