研究概要 |
「意味的隣接表現の文法体系への取り込み」(元来別の表現分野に属する形式が,隣接の表現分野の基本的形式に代わるものとして用いられる現象)の例として,佐賀県方言の順接仮定条件表現形式「ギー」を取り上げ,用法・体系を把握するための臨地調査を行った。 「ギー」は,動詞連用形からの転成名詞「きり」に由来すると考えられるが,現在,佐賀県方言(特に佐賀西部方言)では,順接仮定条件表現を担う中心的な形式となっている。佐賀県内の2地域2世代における調査の結果,この形式を最も多用する佐賀西部地域高年層においては,(1)「ギー」の意味用法は,共通語の「ば」「たら」「と」の持つ意味用法のほぼ全体をカバーするほか,共通語では「なら」のみが担う認識的条件文にまで及ぶこと,(2)「なら」と同様,従属節末でのテンスの分化を有すること,が明らかになった。このように広い意味用法を持つ順接仮定条件表現形式は,全国的に見ても他に知られていない。 これにより,この形式の文法体系への取り込みのメカニズムを分析し,言語変化上の位置づけを明らかにすることは,「研究の目的」に挙げた,言語変化研究および,文法研究としての目的に合致するものであるとの見通しを得た。今回の調査では,意味用法の範囲に広狭の違いのある2地域2世代の話者から回答を得ている。今後これらを比較対照して分析することで,変化のプロセスの一端が明らかになることが期待される。 また,この形式の意味用法について,量的側面を考慮に入れた分析を行うために,当該地域方言による昔話文字化資料の電子化を行った。
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