研究概要 |
「意味的隣接表現の文法体系への取り込み」(元来別の表現分野に属する形式が,隣接の表現分野の基本的形式に代わるものとして用いられる現象)の例として,九州西北部方言の順接仮定条件表現形式「ギー」(三井),引用・伝聞表現トイウ類の文法化形式(日高),対称詞由来の間投助詞(井上)を取り上げ,用法・体系を把握するための調査と分析を継続した。 三井は,昨年度までの調査・分析の結果を,論文「九州西北部方言の順接仮定条件形式「ギー」の用法と地理的分布」(『國學院雑誌』112-12)としてまとめた。主な内容は次の通り。(1)佐賀県内の2地域における調査の結果,地域差として,(1)東部地域高年層では,「ギー」は,共通語の「ば」「たら」「と」の持つ意味用法のほぼ全体をカバーする,(2)西部地域高年層では,これに加えて認識的条件文にまでおよぶ広い用法が安定的に認められる,ことが明らかになった。(2)1964~1965年に九州方言研究会によって行われた,老若二世代の分布調査の資料(別府大学所蔵)を地図化し,さらに『方言文法全国地図』を併せて,「ギー」類の分布地域と時間的推移を把握した。これにより明らかになった「ギー」類の形式のバリエーションと分布の変化を,(1)で見た意味用法の地域差と関連づけて,「ギー」類の発生と変化のプロセスについて解釈を試みた。また,壱岐島方言の「ギー」類について臨地面接調査を行い,形式,意味用法,使用頻度の面で,佐賀方言との間に違いがあることを確認した。両者を対照することにより,「ギー」類の発生と変化のプロセスについて,さらに考察を深めた。 日高は,方言による昔話資料を用いて,引用・伝聞表現トイウ類の文法化形式と,元来の引用の助詞トとの意味分担のありようとその地域差について考察を進めた。井上は,間投助詞について検討を進めた。
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