研究概要 |
平成21年度は,日本語母語話者による英語音声の聴解プロセス研究の一環として,勤務校である岩手大学教育学部で担当した「英語音声学演習I」の履修学生を対象にして行なったリスニング実験(「ディクテーション」と「テープおこし」)の結果と,その後,履修学生たちに取り組んでもらった各自の聴解判断に関するレポート内容を分析することにより,英語音声の聴解プロセスを質的観点から考察をした。具体的には平成21年度は「認識の指向性」と「音声群のチャンク理解」の問題に焦点を当てて取り組んだ。 このうち「認識の指向性」については,英語リスニングにおいて聴解者の「反射的知識」が反映される際に,音声群のすべてを同時聴解できない場合に,聴解者が聴解の手がかりとなると判断した箇所に意識が集中して向けられるものと考えられ(選択的聴解),以下の3点すなわち(1)短期記憶における容量の限界,(2)聴覚上の刺激として相対的にプロミネンスが高い部分に意識か向き,その箇所に解析の起動点が置かれやすいということ,(3)聴解者自身のリスニング語彙との親和性,の観点から考察を加えた。 次に「音声群のチャンク理解」については,日本語母語話者においては,聴解の際に互いに隣接する語どうしを既存の知識を活用して語句として一つにまとめて理解するところまでは「反射的」にできることが多いのであるが,その一方で,入力となる音声をもとにそれを文全体を視野に入れて「構造化」して聴解できるところまでには至っていないケースが多くあることも実験結果の分析から明らかになり,要素どうしが離れている場合の「構造化」の成否が、外国語として英語音声を聴解する日本人英語学習者と,英語母語話者との間に見られる決定的な違いであるという観点から考察を加えた。
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