研究概要 |
英語の動詞frightenに代表される心理インパクト動詞(scare, shock)において見られる非選択目的語の認可とそれに伴う本来の目的語のPP内への降格のメカニズムについて、関連する表面接触動詞(wipe)や状態変化動詞(freeze, melt, break)の用法と比較しつつ、Ramchand(2008)のFirst Phase Syntaxの枠組みを用いて分析した。First Phase Syntaxは、動詞の語彙意味と統語構造のインターフェイスとしての事象構造における一般化を捉えるシステムであるが、特に動詞の潜在的な多義的用法を説明する「不完全連結(underassociation)」のしくみを補完する2つの機能的制約として、「項の共有」と「非顕在項の認可」を提案することにより、心理インパクト動詞において非選択目的語構文への生産的な拡張用法が見られることの構造上の基盤を理論的に明らかにした。心理インパクト動詞は、非選択目的語を伴う拡張用法を許す典型的な動詞類であり、この分析で提案した文法的な認可のしくみは、その他の表面接触動詞や状態変化動詞の類の分析にも応用できるものであり、なぜ非選択目的語を伴う拡張用法が、他動詞一般ではなく、特定の動詞類に限定されるのかを説明する上で、有力な理論的道具立てとなることが期待される。今後はさらに、関連する構文の創造的使用における意味解釈の様相を、現在構築中のデータベースにおける具体的用例の語用論的分析も含めて、解明していくことにより、創造的言語使用における文法のはたらきについて総合的な理論化を進めていく必要がある。
|