非選択目的語が関わる構文研究の一環として、単文内で一般には許されないとされる状態変化と位置変化が両立すると思われる複合的変化事象に焦点を当て、(1)内部移動の結果構文(He dropped his mouth open)、(2)状態変化動詞を伴う非選択目的語結果構文(He scared the secret out of her)、(3)見せかけの結果構文(She piled the books high up to the ceiling)という3つのタイプの構文の成立条件を整理し、変化事象の分析一般に対する理論的な含意を考察した。これらの構文に共通する特徴として、Iwata(2008)、岩田(2010)の論じている、直接的因果関係と同時性の成立という条件に加えて、状態変化と位置変化をそれぞれ表す述語(動詞と結果表現)が、「部分(part)と全体(whole)」、あるいは「図(figure)と地(ground)」という関係に基づく変化主体の再解釈に応じて、関連はあるが異なる実体である叙述対象を持つことを明らかにした。また見せかけの結果構文においては、形状変化動詞のスケールの本来的な両義性から、状態変化のAP結果句と位置変化のPP結果句が共起する場合には、状態変化と位置変化のどちらが因果的に先行しているかは一概には言えず、むしろ直接的因果関係と同時性は、事象の性質あるいは動詞の意味に応じていずれかが優位に認識される同じコインの表裏のようなものと見なすことができる。この分析で明らかとなったのは、単文内で状態変化と位置変化が両立するには、変化主体に関して世界知識に基づく内在的あるいは文脈依存的な内部構造に基づく「部分と全体」、あるいは「図と地」という概念上の再解釈が前提条件となっており、そこに言語使用における創造性が関与する余地があると考えられる。
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