本研究の目的は、結果構文の関連構文(使役移動構文等)における非選択目的語(動詞の語彙情報に直接依存しない目的語)が認可されるメカニズムを解明し、いわゆる一度限りの新奇な用例も含めて、創造的な言語使用における文法の役割について、狭義の文法論だけでなく、語用論的視点も含めて、理論的に考察することである。 本年度は、位置変化あるいは状態変化という変化事象を内在化する構文表現における非選択目的語の導入における意味解釈の条件について考察した。まず動詞のタイプ別(結果含意他動詞、非能格他動詞、非能格自動詞)に、非選択目的語が生じた場合の適切な事象解釈のしくみを検討する上で、非選択目的語の認可に関与する「世界知識(worl dknowledge)」と「文脈情報(contextual information)」の働きを区別し、結果含意他動詞の場合には「世界知識」の貢献が大きいのに対して、非能格動詞の場合には、「世界知識」も関与するが、むしろ「文脈情報」の方が適切な解釈にとって不可欠であることを、具体的事例分析に基づき明らかにした。より詳しく述べると、結果含意動詞の場合には、「世界知識」に基づく変化主体の部分と全体の関係性が解釈の中心的な役割を果たすのに対して、非能格動詞の場合には、場面における近接物としての関係性を特定する文脈情報への依存度が大きいことを論じた。 これらの知見は、人間の言語使用における文法と創造性の相互作用を解明する手がかりとして位置づけることができる。
|