人間言語の統語研究は、現在、フェイズ(phase)という演算単位を設け、演算システムに見られる簡略性や経済性の特性を導き出せるか否かの検証が進められている。本年度は、wh移動・束縛現象との関わりについて研究した。 (1)照応形は、指示の値が「未定」の関数で、Moveによって先行詞と主述関係を構築する。さらに、例えば「彼らiとお互いiの母親」が非文法的であるように、他の独立した述部に寄生(=付加)して主述関係を構築する。これにより照応形と代名詞の分布の相違が導出される。また、「自分」等が示す主語指向は「θ位置を占める要素」との主述関係となる。 (2)複数のフェイズが連続的階層を成す構造ではphase-edgeの要素もPICの規制を受ける。例えば、^*John talked about [DP him]におけるhimはDPフェイズの主要部Dを占めるのに対して、John talked about [DP him] and [DP his mother]]におけるhimは、DPフェイズが積み重なるため、PICにより、離接指示を強制されない。また、John reads [DP books about HIM/^<*'>im]において、弱形の'imが許容されないのは、'imの弱化に伴ってbooks-about-'im全体が主要部Dに編入して、'imがphase-edgeを占めることに由来する。この分析と(1)の照応形の分析から、Hicks(2009)が提案する「フェイズの相対化」は不要となる。 (3)?How many pictures of John do you think he will like?等で再構築化現象が発生しない事実については、wh句がphaseを通過する環境において、Chomskyが示唆する「フェイズ内での一括操作」の相互作用に還元する可能性を検討した。
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