研究概要 |
人間言語の統語研究は、現在、フェイズ(phase)という演算単位を設け、演算システムに見られる簡略性や経済性の特性を導き出せるか否かの検証が進められている。本年度は、Heycock(1995)が示した創造動詞の補部名詞句内での再構築化の振る舞いを中心にして移動現象と束縛現象におけるフェイズ機能の統合的研究を行った。 (1)例文How many lies aimed at exonerating Clifford is he planning to come up with?においてheがCliffordを先行詞として許容できない事実は、Heycockが主張する通り創造動詞の補部名詞句の特性であるが、その取り扱いはLFではなくナローシンタクスにおける派生の初期段階において処理される仕組みの構築を試みた。すなわち、非創造動詞構文(例:Which stories aboutDiana,<i>didshe<i>most ob jectto?)では、(i)補部名詞句の組み立てと(ii)wh誘移動を含めた主文の組み立てを並行して実行可能であり、動詞の補部位置にはNのみを、そして、wh移動先にはNPの完全体をマージできるため、[_<NP>which pictures of Diana] did she most object to [_Nstories]において再構築化違反が発生しない。これに対して、創造動詞の補部名詞句ではこのような平行派生が認められず再構築化の違反が発生する。 (2)Lebeauxが一連の研究で示した項と付加詞の非対称性を日本語の事例で検証し、その分析を試みた。関係節を含む文「誰<i>が描いた(自分<i>の)似顔絵をそいつ<i>がおおいに気に入ったの」は容認度が高く、一方、創造動詞を用いた文「*誰<i>の似顔絵をそいつ<i>が描くの」が非文となる点は英語と同様の振る舞いである。一方、非創造動詞を用いた文「*誰<i>の息子をそいつ<i>が甘やかしてるの」は非文であり、Heycockが示すパターンと異なり、むしろHuang(1993)が示すパターンと似ている。この特性を、移動の中間点としての_VPのエッジの利用の有無から導出する試みを行った。
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