本研究の目的は、語用論的な観点から時制の中英語から初期近代英語への発達を分析することである。時制には言語使用者や文脈等の要因が密接に関わっているにもかかわらず、歴史的なデータにおいては、語用論的な分析はこれまで殆どなされてこなかった。本研究においては、言語行為等のミクロなレベルに留まらず、会話や談話等のマクロなレベルに踏み込んだ検討を行い、時制の意味や機能が歴史的にどのように発達してきたのかを体系的に分析している。 本年度は、昨年度に行った初期近代英語の分析を精密化し、通時的な分析につなげていくための、中英語の試験的な分析を試みた。歴史語用論や時制に関する文献をさらに調査し、理論の進展を確認・検討した。 チョーサーをコーパスとし、非過去時制に関して、意味論的なファクターであるモダリティとの関連、言語行為、談話における時制を表す形式の交替に関して分析を行った。これまでの研究では曖昧に扱われてきた統合論的、意味論的、語用論的(社会言語学的)な種々のファクターを厳密に区分するよう細心の注意を払った。今回の分析結果と昨年度に行ったシェイクスピアに関する分析結果とを比較し、非過去時制の通時的な発達に関する示唆を得ることができた。 来年度については、これまでの研究結果を踏まえ、特に過去時制の分析を行い、非過去時制との比較を行いながら、中英語から初期近代英語への通時的な発達を明らかにしていく予定である。
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