本年度は、申請者の前年度までの一連のイギリス英語の強勢変異分析によって明らかになった好韻律性に関して、非英語母語話者にも理解しやすい形で提示するための工夫の一つとして、音響学的分析による視覚化を検討し、また好韻律性の具現としての英語のリズムに関しては「標準化配列間変動指標」の数値を利用した特徴の数値化について考察を進めた。具体的には以下の点を検討した。 ・変異理論の枠組みにおける社会言語学の最初の本格的研究であるラボフのマーサズ・ヴィニヤードにおける英語の二重母音の中舌音化を例に、非英語母語話者が英語の音声変異形を理解するためにソフトウエア・プラートの一つの機能を用いて第一フォルマントと第二フォルマントの値を操作することによって、二重母音の中舌音化の疑似体験が可能であることを示した。 ・現代イギリス英語の強勢変異形に関して、英語母語話者による強勢衝突回避のストラテジーを視覚化し、この分析が文レベルでの強勢配置を再考する契機となり、以下の英語リズムの考察につながることとなった。 ・リズムに関する先行研究で提案されている標準化配列間変動指標を用いて、英語とフランス語の歌の音符に反映される音節長の変動性を測定し、音節構造が言語間のリズムの違いを引き出しうる可能性を指摘し、ローパスフィルターをかけた日英の歌を用いた言語の識別実験を行い、リズムの知覚にとくに関与すると考えられる音響的特性2つを指摘した。この知覚実験については今後さらに検討を重ねる。
|