本年度は、英語のV-ingだけに中英語期以降起きた変化、特に動詞性を獲得し、現在分詞の接尾辞にもなり、進行形の要素や補文として発達した理由に関し、鍵を握るのはMiddle Welsh Verbal Nounである可能性を追求した。Middle Welsh Verbal Nounは動詞と名詞の両方の統語特性を持ち、単独で又は前置詞ynと共に現在分詞としても機能し、Voice-neutralで、進行形構文も成す。この形態や特性も、中・近代に見られる及び英国及び米国南部に残る方言の(a-)V-ingの特徴と重なる。一方、古英語期まで系統的にも社会的にも英語と関係の深かった北ゲルマン諸言語では、古英語の場合と同じく、現在でも、動詞派生名詞V-ingは純然たる名詞であり、現在分詞もV-ende形であり、動名詞は存在しない。また、進行形の制限は、標準英語の進行形が発達する中で前置詞inの意味に引きずられて生まれた可能性にも辿り着いた。 今年度前半は、Insular Celtic諸言語及びその英語への影響、動名詞の歴史Middle Welshの文法書、Welshの歴史、英国史、DNA研究や考古学の見地、に関する文献や情報を収集し、様々な残存文献考察も検証し、成果を、2010年8月に福岡で開催された第22回福岡認知言語学会で発表した。 9月には、英語のV-ingとOld Norseや北ゲルマン諸言語におけるV-ende/ingとを比較する為、Norwayのオスロ大学、及びオスロ近郊のホグスコーレン大学ヘードマーク校に、Norway語及びOld Norseの研究者や、現代Norway語の辞書編纂者、英語の進行形や動名詞の研究者を訪問して情報・資料収集、意見交換を行った。Norway語に関する詳しい文法書は英語で出版された物がなく、Middle Welshや僅かな中英語口語文献以外には、直接的証拠となりうる残存文献が乏しい為である。後半の成果は、九州工業大学紀要に纏めた。 本年度の成果は、3月に第21回英語史研究会(上智大学)で発表予定だったが、震災の為直前に中止となった。23年度5月に予定されている近代英語協会、7月に予定されている国際歴史言語学会、及び5月末締切の論文集に発表予定である。
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