研究概要 |
同一の経験を言語化した場合、話者間でどのような形式上の変異が見られるのか。形式上の変異は、言語構造や情報構造、個人差、性差、言語差とどう関連しているのか。時代によって変異パターンと他の要因との相関に変化は起きないのか。本研究は以上の課題に取り組んでいる。 23年度は米語女性話者20人と男性話者18人によるナラティブを資料に事実調査を行い、その成果を英語論文で発表した。また、一般公開された学内の研究発表会で口頭発表を行った。具体的にはナラティブ資料における関係詞節の分布を調査した。関係詞節が主節のどの位置に現れるのか、先行詞と関係づけられた要素は関係節内でどのような文法関係を持っているかを調査し、他の文体研究(Keenan 1975,Fox1987,Fox&Thompson 1990,2007)と直接比較を行った。 これにより次のことが明らかになった。(1)ナラティブにおける関係詞節の分布に男女差はない。(2)主節の文末位置にある名詞句が関係節化されやすい。(3)先行詞は関係詞節内で主格として機能する傾向が強い。(4)主格と目的格の比率は男女とも4:1であった。この結果はKeenanが調査した文体(英大衆紙、英小説、哲学論文)における関係節分布やそれに伴う結論を強化する結果になった。つまり、文構造が単純な丈体では、主格と目的格関係詞節の頻度差が大きくなるのである。 一方、会話における関係詞節の分布は他とは著しく異なり、主格と目的格関係詞節の比率が1:1に近いことがFoxとThompsonの研究で指摘されている。しかし、この違いは会話内で主節や関係詞節に現れる人やものの種類の違いに起因することがわかった。会話では"I"や"you"といったspeech act participantsの出現する比率が非常に高く、そのために他の文体とは異なる分布が見られるのである。
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