まず、申請者のこれまでの研究で分かっている英語の接尾辞の強勢に関する制約と、語形成に関する制約を組み合わせ、論理的にどのようなパターンが可能であるか、最適性理論に基づくソフトウェアOTSoftを用いて予測を行った。それによると、音節構造と語基の強勢がある特定の状件下においてのみ、語形成が妨げられると予想されることがわかった。その調査と同時に、実際英語にどのようなパターンが観察されるのか、120弱程の接尾辞について、収録語彙が豊富であるSOEDを用いて調査を行った。その結果、おおむね上記の予測通りのパターンが観察されるが、予想されるパターンが一部存在しないことがわかった。 このような個別の接尾辞に関する量的な調査を、しかもこれだけ多くの語彙に対して行った研究はこれまで世界中のどこにも存在せず、英語の記述調査として大きな意味がある。また観察されたパターンがおおむね予測に即していた事実は、用いた制約の適切さを示すと同時に、最適性理論に基づく分析の妥当性をも示しており、言語理論的に大きな意味がある。 上述のギャップ(すなわち一部の状況下のみにおける語形成の保留)についての研究はこれまであまりなされてきておらず、記述的に意味があると同時に、それを正しく予測できる最適性理論の適切さを示しているので、理論的にも大きな意味を持つ。また、そのようなギャップが一部存在しないという事実は、申請者の提唱する部分配列理論によれば、英語における部分配列によるものと分析できる。つまり、一部の制約の間にのみあらかじめ優先関係が決まっているため、論理的に可能なパターンが一部存在しないと分析できるのである。部分配列理論の研究はまだ始まったばかりであるので、この調査結果はこの理論の発展に大きく貢献できる。
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