本研究の核になる「国際共通言語としての英語」の特性を分析するために、文献調査と紛争後地域および国際機関における調査を行った。コソボ共和国では、多民族・多言語国家における英語使用状況を調査し、共通言語とする英語には政治的・人道的な働きの側面があることを発見した。当初調査の対象を複数民族と予定していたが、セルビア人および少数民族地域へのアクセスが困難なため、今年度はアルバニア人の英語話者(有識者)に限定して行った。セルビア語での教育を受けたことのある年齢層はセルビア人とのコミュニケーションは、仕事上は英語を好み、個人的にもセルビア語を避ける傾向がみられる。紛争以降に教育を受けている若い世代はセルビア語を学ばないため、セルビア人とのコミュニケーションは第3言語の英語となる傾向が見られる。教育省で計画している複数民族共存の英語または複数言語による教育機関は、現時点では実現できていない。次年度にセルビア人地区での聞き取り調査、教育言語政策、その他少数民族における状況を続いて調査をする予定である。 以上の結果から、中立言語としてアルバニア人とセルビア人が英語を使用し意思疎通を測る状況下における英語の持つ特性と言語アイデンティティを考察した。この言語使用の特徴は、Language for Equal Distance(対等な距離を保つ為の言語)としてとらえることができる。今後の研究背景データとして、国際機関で働く人たちに見られる、英語を共通言語として使うときの母語言語と非母語言語話者との意思疎通の質的な問題を、リンガフランカ専門家の高橋礼子(文教大学非常勤講師)氏に研究協力者(追加)として依頼した。その結果を、2010年7月のIAWE(International Association of World Englishes)にて発表予定である。今年度の研究報告実績は、別項目に掲載する。
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