本年度は、意味に忠実な項構造の形成の問題を主に論じた。言語が「語彙・意味志向型」であることが項構造に重要な影響をおよぼしているが、この「意味・志向型」の顕著な具現化はその言語の格体系であることから、現代英語のような格の解釈不可能性は古英語には該当しないことを論じた Interpretable Case in the history of Englishという論文を開拓社から発行された「ことばの事実をみつめて」という単行本に掲載した。 現代英語の際立つ統語的特徴としてあげられる非対格構文が、実は古英語などでは、独立した統語構造として立てる必要はなく、非人称構文のなかに包摂されてしまうこと、この事実は、機能範疇を欠く「語彙・意味志向型」言語の性質から帰結するものであることなどを論じた研究を7月に国立民族学博物館(大阪)で開催された第20回 International Conference on Historical LinguisticsにおいてUn accusativity revisited:Un accusativity in the history of English というタイトルで研究発表を行った。歴史的な観点からの非対格性の議論は他にほとんど例がなく、発表を聴いた世界の言語学者たちから高い評価を受けることができた。 項構造の変遷は、言語全体の構造の変遷と関連があり、動詞の項である名詞句の構造とも共通点があり言語が並列構造から階層構造へと変化していったことを論じた Why has an article system emerged?:the shift from parataxis to hierarchyという研究発表を、8月にウクライナ共和国のLviv大学で開催された第7回International Conference on Middie Englishにおいて行った。特に、構造の文法化という新しい視点を打ち出し、注目を浴びた。
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