研究概要 |
本研究で提案したスケール構造を取り込んだ意味表示によって、1のような空間と時を表す前置詞の振る舞いも捉えることができる。2のintoの概略的な特質構造では、ある着点や最終的な時間までの空間移動や時間経過が関数moveの構成役割でp_0<_∝p_1<_∝p_2…<_∝p_nとして表されている。そして、最終的な場所や時間はat関数の構成役割y=p_nで表示される。このように、空間と時間の意味的な平行性も意味表示で捉えることが可能である。 1 a.They sank a pile ten meters into the ground. b.Andy and I talked well into the night. 2.into:move(e1,x)[CONST:p0<∝P1<∝P2…<∝pn] at(e2,x,y)[CONST:y=pn] しかし、常に空間表現と抽象的な時間表現が並行的なわけではない。例えば、日本語では、「まで」は、時間表現にも空間表現にも用いることができ、その時間や場所までの動作の継続を表す。しかし、4のように「までに」は時間表現にしか用いることができない。 3 a.哲夫は10時まで走った。 b.哲夫は東京駅まで走った。 4 a.哲夫は10時までに宿題を終えた。 b.*哲夫は東京駅までに{走り/宿題}を終えた。 英語では、「まで」は時間表現ではuntil(till)、空間表現ではas far as、up toなどを用い、untilを空間表現に使うことはできない。このような、時間表現と空間表現の非平行性や日英語の相違は、それぞれの語の意味の違いのみならず、概念上の問題であると考えられるが、この点については今後の研究課題である。
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