本研究は日本語音声教育の新しい方法論として、演劇の知見を援用した「演劇的アプローチ」による日本語音声教育の開発を目的とする。平成21年度はその基盤となる日本語話者の音声的変化を対象に、演劇の稽古において、演出家がどのような指示を出し、その指示に対し俳優がどのように自身の音声表現を変化させるかを分析した。平成20年度に採取した劇団・青年団の新作公演稽古から、演出家(平田オリザ氏)の指示の前後における俳優の台詞に見られる音声的変化を、主に基本周波数(F_0)の変化を中心に分析した。 平成21年度は、稽古において平田氏の指示が多く入ったシーンを抽出し、稽古段階間で比較・分析を進めた。その結果、セリフのF_0は、個々のセリフではなく、シーンの流れの中で、話者同士のやり取りの中で調整されていくことが分かった。この結果により、従来のコンテクスト・フリーの文単位における音声特徴とは異なる特徴を提供することができた。22年度以降はこの分析をさらに進めるとともに、シーンの流れの中での調整を視野に入れた会話練習をデザインし、演劇経験者ではない日本語話者、及び日本語学習者を対象に、練習を重ねる中で韻律がどのように変化するかを分析・考察する予定である。
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