本研究は、日本語音声教育、特に感情表現などのパラ言語情報の教育を効果的に進めるための新しいアプローチとして演劇的手法の応用を提案し、その教材開発を行なうものである。 最終年度である今年度は、最終年度である本年度は、これまで2年間行なってきた2つの研究をさらに進めた。1つは劇団・青年団の新作公演稽古(平成20年度にビデオ及び音声採取)から、演出家の指示の前後における俳優の台詞に見られる音声的変化を、主に韻律の変化を中心に分析した。もう一つは、現在本研究者が実践している「演劇的アプローチを使った音声教育」の授業における教材・方法論の整備を行ない、授業における学習者の音声の分析を進めた。最終的には、劇団の稽古における俳優の音声を段階的に分析し、そこで得られた知見を日本語音声教育に応用することを目指していたが、演劇で使用する台本のセリフの自然性と比較して、日本語教育で使用される(本研究者が実践で使用した)会話文は充分な自然性を持っておらず、この両者を比較することが現段階では充分にできなかった。最大の問題点は、劇団の稽古で使用されたシナリオと、日本語教材開発において試行したシナリオ(=日本語教科書の会話文)はまったく別のものであり、またその自然性においても日本語教科書の会話文は充分な自然性を持っているとは言えず、劇団の稽古から抽出した結果をそのまま音声教育に反映させることが充分にできなかった。今後この研究を進める上で必要なことは、同一のシナリオを日本語母語話者と外国人日本語学習者で稽古し、その相違点を比較することが必要であると考える。
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