本研究の目的は、第一に日本語教育用文法用語(JSLTG)の出自から今日の日本語教育・国語科教育の現場における文法用語の使用実態までを明らかにすること、第二に文法教育のあり方の側面から日本語教育と国語科教育との連携強化のための方策を提言することである。最終年度の成果は次のとおりである。 1.JSLTG出自調査:(1)「い形容詞」「な形容詞」の出自は先行研究では三尾砂(1942)『話言葉の文法(言葉遣篇)』とされている。が、それ以前の文献を再検証し、三尾のいう「い形容詞」はロドリゲス.(1604-1608)、ホフマン(1868)の用語とほぼ同一の発想で使用されており、ノッス等(1907)のadjectivesiniとほぼ同一と見なすことができ、三尾がいう「な形容詞」は今目の「な形容詞」より広い範疇のものを含んでおり、今日のものと指し示す範囲が一致しているものは、ブラウン(1863)と青年文化協会(1942)のものであることを明らかにした。(2)出自に言及した先行研究を渉猟し各JSLTG別に分類し解題を行った。 2.文法用語使用実態調査とJSLGT統一化へ向けた提案:(1)日本語教科書50種のJSLTGと主に海外で教える日本語教師175名が現場で用いるそれを比較検討した。例えば、教科書でも使用率が高く現場でも最高使用率の「い形容詞」類(99.6%)と次点の「な形容詞」類(99.4%)は、指導地域・教師の第一言語等との関係傾向もクロス集計により明らかにし、形態的特徴を捉えた「い形容詞」「な形容詞」(「形容詞」は各言語翻訳可)への統一を提案した。(2)国語科教育に関して、国語教科書(小・中学校用各3種)の文法用語を調査し日本人児童生徒に形態的・機能的に理解しやすい新たな文法用語の提案を試みた。 以上の成果は、多様なJSLGTが使用され混乱している日本語教育現場の改善に、JSLGTと学校文法用語の連携に向けてさらに検討される際の参考資料として、意義あるものであると考える。
|