研究概要 |
豊富で多様な理解可能なインプットは第二言語習得の成功に不可欠である。しかしながら、日本のような外国語として英語を学ぶ環境において十分なインプットを確保するのはたやすいことではない。近年、学習環境に関わらずたくさんの英語に触れることを可能にする多読(extensive reading)が注目を集めている。稲垣・稲垣(2008)では、大学における一学期間の教室外での英語多読を取り入れた授業により、英語習熟度テストであるミシガンテストの総得点に有意な伸びが見られた。さらに、稲垣・稲垣(2009)では、上記のミシガンテストの伸びをさらにセクション別に分析し、多読の効果は読解だけでなく、聴解や文法にも及ぶことを示した。稲垣・稲垣(2010)では、多読を行うクラス(実験群)と多読を行わないクラス(対照群)を比較したところ、実験群により大きな英語習熟度の伸びが見られ、多読の効果が実証された。本研究では、稲垣・稲垣(2008,2009)のフォローアップとして、さらにもう一学期間(計二学期聞)多読授業を継続した場合にどのような効果が表れるかを検証した。多読は、本来、速効性を求めるものではなく、自分のレベルや興味に合ったものを楽しみながら続けられる活動であり、その最大の強みは長期的効果にあると考えられる(稲垣・稲垣2008,2010)。よって、多読の中・長期的な効果を検証することは重要である。 本研究では、大学一年生の英語授業一クラスに一年間(二学期間)多読を取り入れた授業を実施し、その効果をミシガンテストの伸びを見ることにより検証した。その結果、最初の一学期間で英語習熟度(聴解、読解、文法)に伸びが見られ、二学期目にはその英語力が維持されていた。多読は日本のような外国語圏でも継続して多量のインプットに触れる有効な手段であると考えられる。したがって、多読の効果は短期的のみならず、中・長期的にも検証する必要がある。その意味で、本研究は一年間に渡る多読の効果を調査し、その効果が維持されたいたことを示した点で意義があると言える。今後の課題としては、より直接的に多読の効果を検証できる指標(特に読解テスト、語彙テスト)を開発し、それらを使って多読の効果をさらに短・中・長期的に検証してゆきたい。
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