研究概要 |
文部省検定教科書における文学テクストの扱いに関する研究は昨年度も進展し,その成果の一部は,立木と西出の研究発表で報告されている。また,文学テクストを通した作者と読者のコミュニケーションの研究は山口が担当し,口頭のコミュニケーションとの比較研究を行った。その成果の一部はインターネット上で連載中の論考に取り入れられている。 また,上記の日本における教科書の研究に関連し,イタリア,オランダ,およびドイツにおける教科書の記述と教授法の研究をおこなった。イタリアでは文学テクストを通した教師-生徒間のやり取りの様子を授業に参加しつつ観察した。また,オランダにおいては,本研究で注目しているストーリーテリング(体験談・お話の披露)がカリキュラムの一環として認められており,ストーリーテリングをとりいれた授業の観察を行うとともに,その授業にかかわった教師と生徒双方に対しインタビューを行い,人の肉声を伴ったパフォーマンスがもたらす実効性に関して調査を進めた。ドイツにおける同様の調査については,授業観察を許可申請中だが,今のところまだ許可されていない。 アジア(台湾,韓国,シンガポール)における文学テクスト利用の調査については,現地で同様の研究を提携しつつ行っている研究グループと連絡を取り合っており,互いの研究成果を本年度に開催する学会で確認し合うことになっている。 2011年度に行うはずであって教師向けワークショップは,東北の震災のため延期せざるを得なかったが本年度の学会開催に合わせて行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
教科書の批判的検討に関してはおおむね順調に進んでいる。しかし,ストーリーテリングなどの本研究が扱う分野は,当初の予想以上に豊かな情報伝達・交渉が行われており,より一層の観察と考察が必要となっている。最終年度である今年度も,引き続き研究を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
4日間にわたる国際学会を計画している。うち2日を学校訪問・参観にあて,残り2日を学会での研究発表および講演などのセッションにあてる予定である。アジアおよびヨーロッパから研究者を招き,口頭のストーリーテリングも含めた文学的テクストの教育実践について意見交換を行うことで研究をさらに推進したい。 問題点としては,口頭のストーリーテリングの教育実践に関する研究がまだ少なく,また,書かれたテクストに比べ収集にも苦労することが多い。ただ,肉声によるコミュニケーションで行われていることが,文字化された文学テクストでは,作者の声を再現するかたちで行われていることが多いので両者を比較検討することが研究の一つの指針となると考えられる。
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