本年度の目的は、前回の科研プロジェクトで得られた音響分析の結果をもとに言語「らしさ」について母語話者に検証を行い、学習者の音声習熟レベルを確定し、次年度の音声教育の実態調査へとつなげることにある。そのため、英語、ドイツ語、フランス語の各言語の教育関係従事者および滞日歴6ヶ月未満の母語話者5人ずつに学生の録音音声を聞かせて習熟度を判定させ、音響データとの相関を検証した。聴取実験用オンライン・アンケートの質問項目に分節素(母音、子音)と超分節素(リズム、イントネーションアクセント)に関する8項目を抽出し、4段階評価を行った。実験用録音音声は、5つの文(平叙文2・疑問文2・命令文1)に関して各言語の初級学習者・中級学習者3人ずつ合計30文である。前回科研の結果をもとに、初級学習者に関しては各文について母音の占める割合が最も大きい3名ずつ、中級学習者に関しては割合が最も小さい3名ずつを選んだ。結果としては、フランス語の教育関係従事者及び一般母語話者に初級学習者と中級学習者の間に顕著な差があり、ドイツ語と英語では教育関係従事者にかなりの差が認められたことから、3言語の教育関係従事者において音響データと音声習熟度との関連についての確証が得られた。ドイツ語・英語の一般母語話者の結果からは判定者の音声学的知識の有無が影響したことが示唆された。 3言語の音声教育調査に向けて、ドイツ語では学習者の音声習熟度と学習ストラテジー、モティヴェーション、ベリーフとの関係について調査した。音声習熟度の高い学生は、学習ストラテジーの中でも自己モニターストラテジーと計画ストラテジーを使い、発音の重要性を認識し、モティヴェーションが高い結果が得られた。さらに、次年度に調査する「学習者の音声教育の背景」についてのアンケート項目の抽出および調査方法を検討した。
|