本研究全体の目的は、学習者が自分の文化的背景と異なる学習環境に置かれた場合に、どのように主体的にストラテジー使用を変化させるのかを探ることである。これまでの学習ストラテジー研究は、ストラテジーを静的・固定的な個人差要因として扱ったものが多かったが、本研究は、学習ストラテジーは社会的文脈において変化するものと捉え、質的アプローチを使用する点に特色がある。 3年にわたる研究であるが、初年度の平成21年度は、先行研究の見直しをおこなった。1970年代に始まった学習ストラテジー研究がどのように発展し、2000年代に入ってどのような問題点を指摘されるようになったのかを、主要研究を見直して整理した。また、近年の学習ストラテジー研究の新しい方向性についても考察した。 平成22年度は、昨年度開始した調査を引き続きおこなった。この調査は、学習者は学習環境に影響を受けるとする社会文化的アプローチの枠組みによるものである。対象者は、日本人大学生で半年間アメリカの大学に留学した者5人である。大学入学時、留学前、留学中、帰国後の4回にわたり、SILLという質問紙調査や、個別にインタビューをおこないって、彼らのストラテジー使用の変化を調査した。受験を意識した文法・講読中心の高校の英語授業から、ネイティブスピーカーによる実践的な大学の英語授業へと、学習環境が変わったときに、彼らの学習ストラテジー使用には変化が見られた。また、留学により、教室内のみの英語環境から、生活すべてが英語環境に変わったときにも、彼らの学習ストラテジー使用には大きな変化が見られた。このように、学習者は学習環境に影響を受けてストラテジーの使用を変化させることが本調査から明らかになった。この調査結果は、"A Sociocultural Perspective on the Changes in Japanese College Students'Uses of Language Learning Strategies during Two Transitions"というタイトルの論文として、明治大学国際日本学部紀要第3号に発表した。 なお、2011年3月には、アメリカで開かれたアメリカ応用言語学会(AAAL)の年次大会に出席し、ストラテジー関係の研究発表や講演を聞き、最新の情報を得ることができた。
|