本研究の目的は日本人大学生の一年間の海外留学経験が彼らの言語習得、言語態度、アイデンティティ等の形成にどのような影響を及ぼすかを調査、分析することである。とくに英語を教育言語とするプログラムのなかで、Kachru(1985)のモデルをもとに、(1)英語を母語とする人々が入植し、英語が第一言語として話されている社会(The Inner Circle、例えばアメリカ、オーストラリア)、(2)英語が旧植民地時代の統治言語として使われ、現在第二言語として使われている社会(The Outer Circle、例えば、シンガポール、インド)、(3)英語を外国語として学習、利用されている社会(The Expanding Circle、例えば、中国、タイ)の3つのタイプの地域へ留学する学生を比較し、それぞれどのような社会ネットワークを形成し、その社会言語体験が言語習得や言語態度へ及ぼす影響を量的・質的に調査、分析する。 平成22年度においては、留学前および留学終了後の学生のなかから、Kachruの分類の3つのグループの学生の協力を得て、インタビュー調査を実施した。また、本学留学センターへ提出された学生アンケートの分析に着手した。さらに、タイ・チュラロンコン大学の協力を得て、現地での言語環境に関する調査を実施した。この間、関連文献の収集、データベースを作成するための音声収録、整理のための機材整備を行った。なお、インタビューのフォーマットについては、ワシントン大学准教授KarenGourd氏と2005年度に行った共同研究(Gourd氏が早稲田大学に客員研究員として滞在した際に共同で実施した国際教養学部学生を対象とした言語態度に関する研究)で用いたものをベースに改良作業を行った。文字化作業にむけて学生リサーチアシスタントの指導も行った。
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