研究概要 |
タスク中心第2言語教授を受ける成人初級英語学習者の第2言語発達を,用法依存言語習得理論の枠組みで,1セメスタに亘って縦断的に研究した。用法依存言語習得理論と相性の良いダイナミック系理論による第2言語発達の考え方に基づき,発達をグループの平均で捉えるのでなく個人の軌跡を詳細に分析するという事例研究のアプローチをとった。平成22年度には,タスク中心教授を受ける学習者のうち,研究参加に同意した4名を参加者とし,指導期間中15回に亘って筆記表出データを収集しその発達の軌跡を分析した。その結果,3名においては,ダイナミック系理論が想定するように,発達の軌跡に安定期と変動期があり,変動期に大きく発達する結果が得られたが,1名は指導期間を通して安定しており顕著な変化が見られなかった。そこで23年度には,その1名のデータを視点を変えて再分析した。22年度で分析した語順の正確さに加えて語彙選択の適切さを加味した指標で分析した。その結果、低く安定した時期の後,変動の激しい時期に大きく発達するという軌跡が見られた。またその発達の軌跡とタスクで経験した具体的表現(以後タスク表現)の活用度の変化との間に強い相関が確認され,タスク表現を活用しながら発達していることが明らかになった。22年度の結果と23年度の再分析の結果を総合すると,この学習者は,初期段階では英語語順に関するメタ言語知識の枠に単一の語を当てはめるという表出方略により,安定しているが語彙選択において問題のある表出となったのに対し,その後タスク経験の中で用法依存的な発達過程が進行し,より質の高い表出を可能にしていったと解釈できる。さらに、23年度は,新たな参加者2名からデータを収集した。教師と学習者の相互作用の中で学習者が自己統制度を高めていく様を現在分析しているところである。
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