本研究も2年目になった。1年目は、質的分析を試みたが、2年目の本年は、1年目の受講生と2年目の受講生の「学び方の比較」とそれぞれの年の受講生のミニ・エッセー(原文、修正文1、修正文2)を結束性、首尾一貫性、語彙的複雑さという3つの指標から量的分析を試みた。この分析ではライティングの研究家の佐藤雄大氏の協力に依るところが大きい。 まず学び方の比較では、実際に教えた研修担当者の感想は1年目の方が、2年目の受講生に比べ、「優れている」というものであった。つまり、講師から出されるコメントに対して、反応が多く、かつコメントをもらうごとにどのように反省し、考えて修正文を書いたかについてかなり明示的に示されていたからである。この感想が量的分析でも裏付けされた。 Coh-Metrixを利用し、原文と最終文を2年間分t検定を行ったところ、1年目の首尾一貫性を表すLASがt(14)=-227(p<.05)となり、有意に最終文の首尾一貫性が伸びたことが分かったからだ。さらに、最終文について似た傾向のあるものをクラスター分析してみたところ、結束性と語彙的多様性に関しては1年目と2年目ではあまり差がなかったが、首尾一貫性においては下位層も上位層も平均が高くなっていることがわかった。 ただし、量的分析の結果は、新たな問題点も提起した。研修担当者には、どの受講生がどのように課題をやり、どのように担当者とメールのやり取りをしたかが明確に思い出されるが、量的分析結果で、最も首尾一貫性がある文を書いた受講生は、実はすべての課題提出が最後だった。担当者とのやり取りも滞り気味で、提出された課題も「やっつけ仕事」でこなした感じが強い。そういう文がなぜ「一番首尾一貫性がある文」となったのか。テーマがいじめの問題でそれ以外は書いていない。つまり、「首尾一貫性がある」ことは「優れた文章」の一要素だが、それが即良い文章とはならないということだろうか。
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