本研究では、文主語の「数」と定形動詞の形態の一致の関係に焦点をあて、日本人英語学習者の中間文法における「数」素性の知識とその使用の特徴を考察することにより、第二言語習得における素性と形態の習得について明らかにしようとするものである。 先行研究および予備実験から、主語名詞句の複数性(plurality)について正しく処理できるのは複数を示す限定詞+数詞+名詞の複数形という形態であることが分かった。また、産出タスクでは明示的な文法知識のデータへの影響が考えられたため、下の(1)のような文を用いて自己ペース読解タスクを作成し、文法性判断タスクと合わせて中級レベルの学習者を対象に個別に実験を行った。 (1)a....those two sisters make/*makes alot of money... b....those two sisters of ten spend/*spends a lot of money... c....those two workers in the ticket office listen/*listens to music all the time... d....those two workers with the white bags go/*goes to Seven-Eleven... 文法性判断タスクにおいては日本人学習者の判断は英語母語話者のそれと有意な差はなかった。一方で自己ペース読解タスクのデータは母語話者が全てのタイプの文において文法的逸脱(-sの過剰使用)に敏感に反応した(すなわち読解速度の遅れが生じた)のに対し、日本人学習者の場合は動詞の前に副詞が置かれたタイプ(1b)においては読解速度に遅れが見られなかった。 この結果から、日本人英語学習者の中間文法における主語名詞句と動詞の「数」の一致のしかたは共起する構成素の種類とそれらの隣接性が大きくかかわっており、母語話者の統語的操作とは質的に異なっていることが示唆される。
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