本研究は日本人EFL学習者を対象に、文の構成要素からどのように心的表象が構築されるのかを明らかにすることを目的とした。最終年度は、前年度までの研究成果を統合し、日本人学習者の心的表象構築プロセスに基づく読解指導法を提案することが目標であった。以上の研究課題を軸に研究成果を考察した結果、次の3点が明らかとなった。 (1) 推論の活性化:学習者は、テキスト情報間の関係性や後続の内容に関する推論を、テキストの因果関係に基づき単語ユニットで活性化する。活性化の度合いが強い橋渡し推論は読解中に活性化される一方で、予期的推論は活性化までに時間を要する。また、テキスト情報間の因果関係に基づく推論の活性化が必要である時、読み手は命題ユニットで推論を活性化する。 (2) 推論の符号化を通した心的表象の構築:学習者は活性化した推論とテキスト情報を統合することにより、一貫した心的表象を構築する。単語ユニットで活性化した橋渡し推論と予期的推論は、読解後に読み手の理解に符号化され、テキスト情報とともに読み手の心内に組み込まれる。命題ユニットで活性化された推論については、熟達度の高い読み手は、テキストに含まれる命題間の因果関係をモニターし、それらを正しく結び付けて心的表象へと符号化していた。 (3) 心的表象の更新:学習者は、一度構築した心的表象の適切性をモニタリングし、誤っていると判断できる個所があれば修正を加え、首尾一貫性のある頑健な表象へと修正を行う。このプロセスには上位レベル・下位レベル両方の読解スキルが関わっている。また、どちらのスキルが更新プロセスに必要になるかについては、テキスト構造の影響を受ける。 一貫した心的表象の構築に、学習者の特性とテキストの特性が複雑な影響を与えていることが明らかになり、英語を指導する際の効果的な教授法や留意すべきことなどを考える上でも非常に重要な結果が得られた。
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