研究概要 |
今年度は二つの実験を行った。まずはTara, Yanagisawa & Oshima (2010)で検証されなかった日本人の英語発音が非英語母語話者(中国人)の聴解力に与える影響を検証した。日本人英語の音源は,特に,intelligibilityが高いものとせず,あえて,日本語の誰りがある程度残るもの(どちらかと言えばintelligibilityが低いもの)とした。これは日本の教育現場でよく耳にする教師から生徒への励ましとも理解できる「発音はあまり気にしなくても大丈夫,内容が大事」の是非を検証するためであった。来日して間もない中国人7名に対してディスコースレベルのリスニング問題(音源はRPおよび日本人英語発音)を課した。この結果,日本人英語発音の理解度がRPよりも劣ることが示された。このことは,教室内での教師の励ましが,国際コミュニケーション上逆効果になっていることを示唆している。二つ目の実験として,中国人,日本人の英語発音(共にBent & Bradlowの研究に近づけるためにmoderate accented (intelligibilityは高め)を選出)およびRPの音源を刺激として,日本人大学生(英語力上位群および下位群)および中国人留学生(英語力上位群および下位群)に対してディスコースレベルのリスニング問題を課した。この結果,moderate accentedな発音であっても,双方の英語力上位群の理解度はRPや異なる母語の変種発音と比べて高くなかった。このことから,最初の実験で述べられた「教師の励まし」が教育的にも無意味であることが示唆されたと同時に,標準英語の理解と比べて,変種英語発音の理解の際,脳内活動が異なる可能性があることが示唆された。
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