2009年8月すえ、9月はじめおよび12月後半に、代表者と分担者がモンゴル国立図書館およびモンゴル国立中央文書館で古地図、境界報告書の閲覧、デジタル化、複写をおこなった。国立図書館では、19世紀前半の手書きの古地図のデジタル化を優先的におこない、モンゴル地域で作成された地図に反映されたモンゴル人の景観認識の特徴を分析した。従来、モンゴルの古地図の研究はおもに、ドイツのW.ハイシッヒ教授の出版した、20世紀のはじめの地図をもとになされてきたが、本研究では、よりふるい時期に作成された地図を主たる対象としている。本年度の研究で、乾隆年間に作成された地図が、現存する地図のなかでは、もっともはやい時期に属し、初期の地図の特徴を有していることが確認された。 中央文書館では、地図とセットで提出された境界報告書と送り状の内容から、地図・境界報告書の作成・提出にかかわる中央政府の具体的指示、清朝の対モンゴル支配において地図の作成が有した意味を考察した。19世紀中葉の境界報告書には、境界標識(オボー)の位置、方位のほか、当該の地方の人口に関する情報もふくまれており、独自の価値を有すること、附属文書のなかでは、近隣の諸地域とのあいだで発生した土地に関する紛争についての報告がなされたことなどが確認された。とりわけ、外モンゴルでもっとも有力な活仏だったジェプツンダンバ・ホトクトに所属する寺領民の数、僧侶の数などは、清末に作成された各ホショー(旗)の境界報告書には記載されておらず、この時代の境界報告書が重要な史料たりうることが、あきらかになった。
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