最終年度の本年度は、本課題の研究内容の点検、補足、総括を行った。日唐律令条文及びその注釈書の比較研究(21年度)、婚姻形態と所有形態、親族間の相互扶助に関する考察(22年度)、蔭位制と父系継承に関する考察(23年度)などといった内容を総括し、一部論文に纏めて公表した。 父系宗族を前提とした唐の等親制が大宝・養老両令によって双系的に修正された。養老令の五等親条は、妻妾嫡庶父子夫妻といった唐制の親族呼称を導入しながら、父系傍系親を大幅に削除し、父系の縦のラインを短縮し、個人を起点とした横広がりの五等親条に修正した。一方、平安時代に見られた「後見」という親族間の相互扶助は、当時の居住形態に照応した形で展開され、妻方、母方に重心が置かれていた。 本来高官の一特典に過ぎなかった唐の資蔭制は、古代日本社会において官人出身法であると同時に継嗣法としての役割を持っていた。蔭位(資蔭)制の持つ出身と継嗣の二つの役割について、「家業について(2)」を発表し、父系の継嗣と無関係であった資蔭制が父祖と子孫の間の蔭関係によって父系的継嗣法として転用されたことを論じた。 父系大家族を前提とした中国の財産分割法が養老令の応分条において個人相続法に改変されたことは父系大家族の経済的前提の消滅を意味する。しかしながら、養老令の応分条では、妻・妾、嫡子・庶子、男子・女子の相続分が差別的に定められている。元来家族内の秩序や父系の血筋を保つための嫡庶制が相続法や出身法に転用されたことは、古代日本の父系制摂取の特徴ともいえる。嫡庶の問題の一つとして、「古代日本の婚姻形態と妻妾制の導入」を発表し、字面では同じ表現である日中の妻妾制度の相違を、親族呼称、居住などといった基層文化の視点から分析し、両者の違いは単なる複数の女性の間の地位差ではなく、生活形態からくる違いであり、親族構造からくる違いであると論じた。
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