本研究では(1)「遊芸」文化を特徴づける「社会的結合」に関する史料収集および考察を深めること、(2)都市文化の影響を考慮に入れて、村落での芸能文化について明らかにすること、の二点を目的としている。 本年度は(1)については、当初の計画通り巨大都市・大阪での芸能文化の広がりに着目し、大阪における「素人」浄瑠璃の史料を幅広く確認した。その成果は著書『江戸の浄瑠璃文化』として発表し、そこで大阪における遊芸文化の受容について、ひとつの見解を示した。 (2)については、大分県杵築の祭礼を素材に地方の小城下町において近世・近代を通じて歌舞伎・浄瑠璃文化が受容された具体像について考察し、論文「豊後国杵築城下の段尻芸に関する史料について」を発表した。さらに、かつて九州で確認された芸能者の結合と同様な存在が但馬・丹波地方にもいたことが確認され、万歳・陰陽師から近世の役者集団へという中世・近世移行期の芸能者の「社会的結合」の展開モデルが想定された。 また、研究の過程で新たな課題として浮かびあがったのが、芸能作品を通じて近世の人々がどのような感覚を抱いたのかという点である。それについて試論的な輪文「璋世の身分感覚と芸能作品」を発表し、今後の研究の足がかりとした。
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