近年、日本史研究の中では都市史研究に対する関心が高まっているが、既存の研究の大半は市制施行以降を対象にするものであり、市制施行以前や近世都市のあり方を前提とするものは少ない。また、都市の政治史や社会史に関するものは多いが、その前提となる都市制度に関する基礎的な研究はきわめて少ない。そこで本研究において課題として掲げたのは、以下の通りである。 (1)近世都市の定義と近代都市についての明治政府の認識(「三府五港」や商業繁盛の意味)、(2)大区・小区制度のもとでの都市の位置づけ、(3)郡区町村編制法のもとでの都市の位置づけ(「区」の意義と郡区の比較)、(4)市制・町村制のもとでの都市の位置づけ、(5)三部制経済や参事会制度など都市に関連する制度の特質、(6)開港場や北海道・沖縄など独特の制度を持つ都市の特質 研究代表者は、これまで、以上のような課題を意識しながら、京都を中心に次のような作業を行ってきた。 第一に、近世都市の基本的な構成単位である、町人地(商工業者の居住地域)に残された古文書の収集とその所在状況の確認。第二に、市制施行後の都市制度の中でも特徴のある参事会に関する行政文書の所在状況の確認。とくに、1911年に市制改正が行われるまでの市参事会の関係文書の所在状況を調査した。第三に、自治体史や大学の共同研究、有志による史料翻刻作業など、様々な機会を通じての、意見交換と情報収集。第四に、郡区町村編制法のもとでの「区」に関する文書の収集と所在状況の確認。 本研究では、これらの中でもとくに第四の調査・研究を中心とするものであるが、これにより、全国の主要都市に関する研究及び関連史料の所在状況を行うこと、それらの地域における史料の保管・公開をめぐる課題を明らかにすることを目指した。こうした方針により平成23年度に実施したのは、京都、函館、甲府、静岡などの調査であり、とりわけ京都においては関連史料の複写を行った。また、行政文書の保存についての知見を得るために、京都、天草、奈良などで意見交換及び研究発表を行った。
|