研究の目的と本年の実施計画に沿って、次年度以降の本格的分析の前提となる基礎的な作業と史料収集を中心に行った。具体的には10~12世紀初頭の受領任期の解明作業をすすめた。とくにこれまで明らかにしてきた出雲の追加、再検討とともに隣接する石見・隠岐・伯耆、および「東大寺封戸文書書上」にみえる伊賀・駿河・上総・近江・美濃・上野・下野・若狭・越中・越後・丹波・丹後・播磨・美作・周防・紀伊・阿波・讃岐・伊予・土佐について、それらの補任、見任、転任等の史料を収集しつつ、それぞれの受領の任期をできうる限り明らかにした。受領の任国名に諸本で異同のあるものもあるためり、諸写本の写真コピー等の収集、調査も伴った。これらの時期確定が、各種編纂物や文書として残存している諸国公文や財政文書の、個々の受領と関係を位置づける座標軸になるはずである。これらと並行して公文勘済や功過定関係の史料の収集、東京国立博物館所蔵の九条家本延喜式裏文書として残存している「讃岐国戸籍」「某国戸籍」のデジタル写真画像の入手、東大寺文書の「東大寺封戸文書書上」の調査も進めた。とくに「東大寺封戸文書書上」については、受領の任期と封戸物納入、返抄発行の関係、史料自体の作成事情や機能自体の再検討に踏込み、また「讃岐国戸籍」についても、デジタル画像による精査と平安期の籍帳に関する先行研究の批判、検討とあわせて、その史料的性格を本格的に解明する段階に入った。
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