研究の目的と本年の実施計画に沿って、昨年度にひきつづき諸国の国司(受領)と任期の解明をすすめ、補任表を作成した。国司の任期が明確になることによって、各種国衙文書の作成過程と性格を明らかにするため基礎的条件が整備されうることになる。 とくに、紀伊、丹波、讃岐の補任表を前提に、九条家本延喜式紙背文書の国衙関係文書、紀伊国郡許院進未勘文、丹波国高津郷司解、長徳四年某国戸籍、寛弘元年某国戸籍の作成過程とその史料的性格を国司との関係で分析した。紀伊国郡許院進未勘文が摂関家紀伊守平定家が受領の業務として国衙収納を把握するために作成させた文書であり、定家により反故紙が紙背を利用するためにストックされ摂関家周辺の延喜式書写の料紙に提供されたこと、その背景として他の九条家本延喜式紙背の検非違使関係文書も含めて、定家ら高棟流平氏は、「日記の家」として記録の作成、書写に多量の料紙が必要とされ、こうした反故紙がストックされる状況が生じていたこと、などを明らかにした。丹波国高津郷司解も、権介中原師平の家が外記として高棟流平氏と同様な状況にあったこと、戸籍類も国衙の必要上二次的に作成されたもので、讃岐国受領と関係するのではないかとの問題を提起した。 これらはいずれも、受領の任期を明らかにし、それに基づいて諸国公文と財政文書の史料的性格を明らかにするという本研究の貝的と本年の研究計画を一定程度達成したものと意義づけられる。
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