研究の目的と本年の実施計画に沿って、まず前年度に引き続き10~12世紀の諸国受領の任期の解明と国司表の作成を行った。九条家本延喜式紙背文書の史料的性格を明らかにするために、とくに上野、武蔵を、また不十分だった前年度の讃岐、以前にとりあずた出雲、近江の再検討も行った。その結果、讃岐については受領として11世紀初頭に受領が権介から守に転換したこと、同時期に近江も介から守に転換したこと、それには道長の家司受領がかかわることが明らかになった。 国衙関係文書では、前年度に引き続き寛弘元年讃岐国戸籍など戸籍様文書、武蔵国大里郡坪付の再検討を行い、受領との関係で史料的性格を解明した。大里郡坪付は10世紀以前の状況を記したものではあるが、政府に提出される校田授口帳の基礎資料として作成されたものではないかと考えた。校田授口帳は租帳勘会の前提であり、受領功、過に関係するため、12世紀に入っても作成され続けていた。したがって大里郡坪付の作成年代も11世紀前半まで下げてよく、そのころの武蔵守だった摂関家家司一族の平行義などと関係する可能性を指摘した。戸籍様文書も、戸口の性別と年齢分布の特徴から校田授口帳など関係も考慮する必要があることを提起した。いずれもこれまでの研究で十分ではなかった側面に着目したもので、史料的性格と受領との関係で新しい問題を提起できたと考える。 以上の詳細を別途冊子の報告書にまとめた。 これらはいずれも、受領の任期を明らかにし、それに基づいて諸国公文と財政文書の史料的性格を明らかにするという本研究の目的と本年の研究計画を一定程度達成したものと意義づけられる。
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