環境認識語彙の分析については、研究補助員1名の協力を得て『南北朝遺文』から自然景観要素に関わる語彙を抽出し、データベースを作成した。中世の動植物関係資料の収集は、公刊資料を対象に進めた。現地調査は、熊本県菊池市下赤星地区において環境認識語彙のミクロ分析に関わる調査を実施した。調査内容は、近世地名に関する土地情報と通称地名の採集、圃場整備以前の環境利用についての住民への聞き取りなどで、現地調査成果のデータ整理は研究補助者3名の協力を求めた。なお、平成21年度は、前年度に現地調査を実施した熊本県阿蘇市小倉地区の調査成果を集成し、『阿蘇北外輪山麓のムラ社会と生活環境』を発刊した。圃場整備以前におけるムラ社会のしくみと生活環境を跡づけた本報告書では、住民の自然認識のあり方も地名語彙分析を通して明らかにしている。「村掟」の分析は、『中世政治社会思想下』に収録された掟書を対象に進めた。また、自然観の考察に資する研究文献も幅広く集め、理論と諸資料の分析方法を学んだ。 平成21年度の研究成果は、動植物資源を利用した中世海村の生業暦を解明した「中世海村の生業暦」を『国立歴史民俗博物館研究報告』157集に、中世日記史料の魚介類記事め活用法を論じた「魚介類記事から見えてくる世界」を『琵琶湖博物館研究調査報告』25号に、それぞれ発表した。また、熊本県阿蘇市における自然環境利用の特質については、平成21年11月に日本植生史学会で「阿蘇カルデラ北部域最終氷期以降の自然環境変遷と人々の生活空間」と題して発表した。
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