環境認識語彙の分析については、研究補助員1名の協力を得て、中世文書の活字資料を対象に自然景観要素に関わる語彙を抽出し、データベースの構築を目指したが、今年度は作業半ばで終わった。中世の動植物関係資料の収集は、昨年度に引き続き公刊資料を対象に進めた。現地調査は、佐賀県神埼市千代田町のクリーク集落において、環境認識語彙のミクロ分析に関わる調査を実施した。調査内容は、歴史地名に関する土地情報と通称地名の収集、圃場整備以前の環境利用についての住民への聞き取りなどで、現地調査成果のデータ整理は研究補助者3名の協力を求めた。なお、平成22年度は前年度に現地調査を実施した熊本県菊池市下赤星地区の調査成果を集成し、『井手のある風景を支えるムラの営み』を発刊した。文化的・歴史的景観として価値のある下赤星地区の「井手のある風景」を支えてきたムラの営みを跡づけた本報告書では、住民の自然認識のあり方も地名語彙分析を通して明らかにしている。本書の作成については、研究補助者3名の協力を得た。「村掟」の分析は、昨年度に引き続き中世の掟書の検討にとどまった。今年度も自然観の考察に資する研究文献を幅広く集め、理論と諸資料の分析方法を学んだ。平成22年度の研究成果は、景観の変遷と共同体の推移とを連動させて把握する方法を提示した論文「多層的共同体と景観の歴史」を『景観の大変容』に、山野の空間利用の歴史的多様性を明らかにした論文「阿蘇山野の空間利用をめぐる時代間比較史」を『野と原の環境史』に発表した。共同研究の成果を編集した『菊池川流域の景観史研究』でも論文「近世地名の可視化分析」を執筆し、近世の自然観の析出に努めた。
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