本年度は、以下の研究成果を得た。 I.環境認識語彙データベースの分析と時代間比較:前年度完成させた中世環境語彙データベース(マクロ分析版)をもとに、中世の自然観について考察を加えた。さらに、中世の語彙と近世の語彙との比較を主に空間認識語彙を対象に試み、中世から近世への自然観の変容について見通しを立てた。 II.現地調査の実施と報告書の作成:熊本県阿蘇市大字黒川において、環境認識語彙のミクロ分析に関わる現地調査を実施した。主たる調査対象は地形、土地利用、動植物、自然災害に関する地名語彙で、住民からの聞き取り調査によってデータを集積した。調査成果のデータ整理では研究補助者の協力を得た。また、昨年度実施した熊本県阿蘇郡南阿蘇村の調査成果を報告書『阿蘇山中央火口丘群西麓のムラ社会』として刊行し、本研究の資料として活用した。 III.動植物観と生業に関する研究:動植物が擬人化されて捉えられるようになった15世紀に注目し、こうした自然観が登場する背景となった動植物利用(生業)の変化について、水棲生物(魚介類・海藻類)を中心に跡づけた。 IV.研究の総括と成果の公表:三方向からの研究成果を相互につきあわせて総合的な把握に努めた。本研究の成果の一部は、2013年9月に東京、2014年3月に京都で報告した。また、2014年度から始まる滋賀県立琵琶湖博物館の総合研究「自然観」にも、本研究の成果を基盤に参加する予定である。
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