本研究は、日本古代の首都社会における公共領域の特色を宗教習俗などに注目して具体的に分析し、それが身分制等の社会編成に及ぼす影響を考察することをめざしている。 3年目の平成23年度においては、まず、前年度から継続している都市王権と公共性との関係について、先行研究を批判的に検討しながら、宗教的習俗にみる公共性の観点を導入することによって、より発展させることができることを明らかにした。 そして、その宗教的習俗の代表的なものとして、ハラエを取り上げて全体的な構造を分析した。分析視角としては、ハラエの主体と対象の双方における重層性に着目した。(1)ハラエの主体に関しては、公的秩序における奉仕関係の規律化を図る大祓と、その対極に私的な家による様々なハラエが行われる様相について分析し、それらが重層的に存在することによって、公私の秩序が保たれる構造を解明した。(2)ハラエの対象については、人々の犯した罪を贖うハラエ、人・モノ・場に即して穢をはらうハラエ、一身の穢を除くミソギが重層的に行われていたことを明らかにした。(1)で述べた公私の執行主体の重層性は、貴族から民衆に至る共通願望という公共性の宗教習俗的表現形態としての性格を有しているのに対して、(2)で扱った対象の重層性は、王権を中心とした支配構造や、京の支配秩序が国家の秩序に連動する当時の王権のあり方に対応しているといえる。これら(1)(2)の両面から、当時の王権が公共性を裾野としてもちつつ支配秩序を構成していた具体的様相が明らかになった。
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