近世の木版絵図に所蔵者が移動経路等を墨で書き込んでいる事例を分析していくための手法や観察手段を見いだすことに、本研究の第一の目的がある。まず当時の技法を用いて江戸絵図を部分的に復元することに取り組み、本年度末に無事この過程を終えることができた。携わった彫り師・刷り師からは、浮世絵とは違う、江戸絵図独自の技術的特徴があることが指摘され、その経験を聞き取ることができた。 第二に木版江戸絵図の分析を蓄積して、近世都市民の江戸都市空間に対する認識をあぶり出すことに取り組んできた。この点については、特に江戸城に関する認識の特徴と変化を見いだすことができ、東京大学史料編纂所主催のシンポジウムで報告を行った(経費は東京大学による)。今回の使用痕分析の対象としている絵図においても、所蔵者が江戸城内やその近辺に立ち寄っていることは確実であり、分析のひとつの視座を得られたと考えている。 第三に東北地方に所在する近世絵図史料の状況把握と撮影を含む調査を進め、今後の絵図研究の基盤を築くという狙いがあった。こちらについては仙台市内において順調に成果を上げたものの、秋田県内の調査時に東日本大震災が発生し、調査を中断せざるを得なかった。 また、撮影した絵図を投影し、分析するために用いるプロジェクターが急遽必要となり、本年度の予算を23年度に一部繰り越し、対応することにした。
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