本研究は、信濃善光寺門前水茶屋の経営文書である「島田屋文書」を中心に、その整理・公開作業、分析をおこなうとともに、近世~近代の遊郭における、遊郭経営・遊女・男性遊客の実態を明らかにすることを目的とする。また、本資料をもとに、他地域の史料調査を合わせることで、信濃・越後・越中・上野・下野・甲斐・江戸などの広域的な流動性についても検証をおこなうとともに、田地域における同種の資料の調査もおこなった。 1、上記「島田屋文書」の整理作業をすすめ、その近世部分についての翻刻の(三)を『京都橘大学大学院研究論集』第8号に掲載した。あと1・2回で翻刻を完成させる目途がついたので、次年度からは近代部分の目録作成にも取り組む予定。 2、「島田屋」の関連資料の調査として、島田屋の多くの遊女の出身地である、新潟県直江津の今町遊郭に関連して、上越市博物館準備室の福井家文書の調査および現地調査をおこなった。また、新潟県蒲原郡の豪農家などの現地調査もおこなった。 3、他地域の遊郭資料の調査をおこなう。昨年度は、肥前長崎の丸山遊郭、越中七尾の尾廓(おぐるわ)遊郭の文書調査をおこない、豊後日田の豆田町遊郭の資料などを収集した。特に豆田町遊郭の資料は、近代が殆どであるが、遊客名簿などもふくまれ、「島田屋文書」と同性格の経営資料である。また、長崎丸山遊郭についても、長崎奉行所文書の中に幕末の奉行所が調査した全遊女屋の遊客名簿を発見するなど、大きな成果があった。
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