本研究の目的は、戦時下における台湾民衆の戦争の記憶と体験を社会史的観点から多角的かつ具体的に解明することである。台湾人志願兵・軍属・従軍看護婦の出征、戦時下と終戦後の住民の生活等の実態を口述資料と文字資料を収集し分析して記録化し、その歴史的意味を問うものである。 本年度初めには、平成21年度と平成22年度における調査研究の成果を出版社に入稿し、7月中旬に『看護婦たちの南方戦線--帝国の落日を背負って』(東方出版)を出版した。同書は出版間もない8月に日本図書館協会選定図書となった。 夏休み中に台湾での資料収集を実施するとともに、『看護婦たちの南方戦線--帝国の落日を背負って』を持参して、聞き取り調査に応じてもらった人たちに進呈し確認してもらった。さらに夏の台湾調査の折に、10月1日の関西大学における国際シンポジウム「青春と戦争の惨禍 大阪日赤と救護看護婦」に、広東派遣の元台湾篤志看護助手葉蒋梅を招く準備を入念に進めた。 10月のシンポジウム当日には、大谷が「帝国の落日を背負って-野戦病院と遺芳録から-」のタイトルで基調講演を行ない、台湾一陸会副会長の葉蒋梅は、「広東派遣台湾人篤志看護助手の青春」と題する特別講演を行なった。 12月には、台中において、太平洋戦争中に台中農業学校及び台中商業学校を卒業し、台中師範学校在学中に学徒兵となった人たちから、戦時体験とその後についての聞き取り調査を実施し、台北では広東第二陸軍病院に派遣された元台湾篤志看護助手からの聞き取り調査を行った。8月と12月の調査の成果は、論文「記憶の中の台湾と日本(6)-統治下における戦争の体験-」として、『関西大学文学論集』第61巻第4号(平成24年2月)に掲載した。 3月には台湾での補充調査を行うとともに、発表論文の抜き刷りを聞き取りに応じてもらった人たちに進呈して確認してもらった。
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