研究課題
本研究の目的は、寛文~享保期の異事奇聞の調査・分析を通じ、民衆から見た異文化認識を解明することである。先行研究では、異事奇聞は流言蜚語とされてきた。本研究はその空白を埋め、従来の為政者側から見た分析では解明できなかった異文化認識や日本人観を、新たに分析・提供する。平成22年度の研究成果は、第71回民衆思想研究会で発表し、『歴史読本』第55巻11号、『近世初期文芸』第27号に掲載されている。以下、1~3に、その研究内容と成果を示す。1、全国に散見する異事奇聞の調査収集を精力的に行った。史料の翻刻・整理をして分類を行った。また翻刻した史料を精読して分析を行った。2、中国の百科事典『三才図会』をもとにした、日本の『和漢三才図会』は、従来中国版の焼き直しとされてきた。しかし両者の比較で、『和漢三才図会』には、日本独自の異国情報が増補されていることが判明した。増補情報から、当時の異文化認識を確認し、同書が人々にもたらした影響を考察した。3、「長崎旧記類」に収録された島原の乱記事は、同時代の他の文献の記事と記載方法が異なる。記載方法の違いから、当時の長崎の人々の認識を考察し、次の3点を明らかにした。(1)「長崎旧記類」の山田右衛門作口書は、切支丹宗徒の残虐さを糊塗する記載方法が採られている。(2)(1)の記載方法は、右衛門作の裏切り理由に、違和感を持たせる効果も有していた。(3)長崎の人々は、幕府の誤った忠臣右衛門作像を否定するのではなく、「長崎旧記類」に淡々と事実を書き留めることで対抗した。その結果、後世に自らが信じた右衛門作像を伝え残すことで、裏切り者右衛門作への報復を行った。今後は、為政者の創った忠臣像と民衆が見た人物像の相違がどのように生まれ、伝承されていくのかをさらに検討して行きたい。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件)
歴史読本
巻: 第55巻,第11号 ページ: 188-193
近世初期文芸
巻: 第27号 ページ: 38-47