本研究は、現在の中国雲南省西双版納〓族自治州に1950年まで存在したシプソンパンナーというタイ族の政治統合の性格を、これまでほとんど用いられてこなかったタイ語写本を史料として再検討することを目的としたものである。 平成21年度は、タイ語写本中の、王権と社会との関わりを示す部分を選び、研究協力者にタイ国文字に翻字してもらい、かつ日本語への翻訳を試みた。それは以下のような内容のものであっる。 ・王の即立儀礼について:いつおこなうか、何が必要か、どの村が何を用意するか、どの仕事をどの村のどのような人がおこなうか、など。 ・ムン・ツェンフン(王の直轄国)の王田について:どの田をどの村落が耕作しているか、その田から王に納める収穫米の量はどれだけか、など。 ・水利灌漑についての王の命令:水路の修理命令、違反したときの罰金など。 そしてその中で、正確な意味がわからないフレーズやビルマ語起源の用語で意味不明のものなどをピックアップし、西双版納〓族自治州に行き、現地在住のタイ族研究者・タイ族知識人に専門的知識の提供を求めた。 今回翻字・翻訳した中には、1980年代に公刊された『西双版納〓族社会総合調査』・『〓族社会歴史調査(西双版納)』のシリーズの中に、同内容のものが中国語訳されて掲載されている部分があった。それらと相互に参照しあうことによって、以下のような成果が得られた。すなわち、写本の中で意味がよく分からないところを中国語訳によって確認することができ、逆に中国語に翻訳されたものだけからは分からなかった原語(タイ語)を写本とつきあわせることによって特定することができた。後者は特に、今まで仮定のもとに議論を進めてきた状況を改善することができたという重要性を持っている。
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