本年度は、本研究の目的である14・15世紀の転換を探るうえで基礎的な作業である当該期の刻文史料、とりわけ14世紀以降のヴァナキュラーな地方語銅板文書の収集を開始するとともに、同時期に大きな変化を見せる城郭史の研究に着手した。具体的には以下の通り。 ・近年、Google Mapの精度が上がり、インドのほとんどの地区の詳細な衛星写真が入手できるようになったため、これまで精確な図面作成がほとんど行われてこなかったラージャスターンの城郭プランがかなり鮮明な形で見ることができ、しかもラフではあるが標高まで判別できるまでになった。全く調査が入っていない城砦まで比較できるようになったことの意義は大きい。報告者はこれを利用しつつこれまでの城郭史研究を整理して、当該期に建造されたラージャスターン、グジャラート、マディヤプラデーシュの城砦の城郭プランを比較した。その結果、13世紀以前のこの地域の城砦のほとんどが山上城砦であり、16世紀になると山麓に宮殿を構えて麓の都市を城郭化する傾向が見られることが判明した。これはおそらく14・15世紀の転換と無関係ではない。その成果は、8月に中部南アジア研究会において「インド中近世城郭史研究序説」として報告した。 ・2~3月の3週間、ラージャスターン東南部の城砦、マンダルガル、ブーンディー、チットールガルの実地調査を行い、上記の研究を補足した。またこの調査において、Sahitya Samsthanにおいて3通の地方語銅板文書を撮影し、テキストを作成するとともに翻訳した。13世紀以前のサンスクリット文書とはかなり異なる書式を有することがわかり、今後その変化の意味を問うことになろう。
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