本年度も、本研究の目的である14・15世紀の転換を探るうえで基礎的な作業である当該期の刻文史料、とりわけラージャスターンの14世紀以降の地方語銅板文書の収集、および同時期に大きな変化を見せる城郭史の調査を継続するとともに、刻文研究をはじめとする本研究の成果の一部を公表した。具体的には以下の通り。 ・ 2~3月の3週間、ジャイサルメールおよびビーカーネールなどにおいて城砦および城郭都市の城壁・城門を調査した。さらにビーカーネールおよびウダイプルの文書館において14世紀末~15世紀の銅板文書を筆写した(写真撮影が許可されなかったため)。その結果、マールワール地方とメーワール地方では後者の方が銅板文書の地方語化の度合いが強く、その進展に地方差が存在することが判明した。またジャイサルメールではVS1239年の銅板文書を撮影し、テキスト化した(いずれ公表する予定)。 ・ 9~13世紀の銅板文書様式の変遷と国制の変化を明らかにし、日本南アジア学会大会にて報告し、またその一部を大学紀要に掲載した。これらによって、14世紀以降に本格化するサーマンタ体制の克服の動きの萌芽が、すでに13世紀の勅書様式の変化の中に現れていることが判明した。 ・ 14・15世紀の転換を含む8~17世紀の北インドの国制の変遷を、生態的視点を交えて見通しを立て、その内容を「中世北インド論」として講演した。10~13世紀の半乾燥地帯の開発、14世紀後半以降のヴァナキュラーな社会・経済の動きなどが、同時期のユーラシア・レベルの動きと連動していることが予想され、今後より広い視角の中で本研究を進めていくことの必要性が明らかとなった。
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