本年度は、以下の通り、10~16世紀の国家とヴァナキュラリズムをめぐり、以下のような現地調査および論文作成、学会報告を行った。 ・3月にグジャラートを訪れ、バローダ(バドーダラー)博物館所蔵の12~13世紀の銅板文書を撮影し、解読結果を10~16世紀ラージャスターン・グジャラート刻文データベースに加えた。 ・7月に刊行された論文「10-12世紀インドの地域王権とチャクラヴァルティン――地域神・統王・普遍主義」および3月の国際会議で報告した“Sanskritized Imperialism and State Integration in Early Medieval North India (c. 950-1200)”において、ヴァナキュラー化が始まったばかりとされる10-13世紀の諸王朝の宮廷では、なおサンスクリット文化が絶対的であり、それに基づいた理想的な王チャクラヴァルティン(全インドの統王)と巨大寺院建設が、辺境から現れた当時の諸王朝のイデオロギーとして十全に機能していた事実を明らかにし、ヴァナキュラー化が大きく進展する14・15世紀以降の王権とは異なることを示した。 ・3月に報告した「中世初期ラージプートの政治システム」では、13世紀以前のラージプートの国家システムが、ヴァナキュラー化が進む14・15世紀以降のラージプートのクラン体制=パッタ制とは大きく異なり、後者のように集権化の要素を基本的にもたない帝国システムであることを示した。この報告によって、10~16世紀の国家のヴァナキュラー化のプロセスとその政治的意味について、大まかではあるが仮説が提示された。
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