研究概要 |
本年度はこれまで私がアルタイ諸地域で実施してきた国際共同調査の結果データに基づき,モンゴル高原の突厥,ウイグル族や,イェニセイ河中・上流域のクルグズ族の碑文遺跡や埋葬遺物の中に,青銅器時代などの前代の遺物遺跡を再利用してきた理由に関して,実利的な面,祖先崇拝という点などから考察を進めた.また,私は西暦7世紀中葉の古代ウイグル族の墳墓に納められていた銀器の底部に刻まれたタムガの形状とその意味についても,南シベリア方面の埋葬墓で見つかった銘文銀器の底部のタムガとも比較しつつ,その意味を歴史考古学的に考察し,これが埋葬された被葬者の所属部族の表象である可能性を明らかにした. また,本年は7月中旬にハカス共和国で行われた「ハカスにおける伝統文化に関する国際フォーラム」に出席して,2008年夏にモンゴル国ホブド県の洞窟墳墓発見の弦楽器に刻まれたルーン文字を試読し,その成果を発表した.また同国のアバカン市南西にあるアスキス地区のカラーユス草原の古代クルグズ族の墓碑銘や祈念碑についても現地の研究者と共同調査を行い,新たな銘文を発見したが,これらの銘文が紀元前の青銅器時代に当たるタガール時代の遺跡や遺物を再利用する形で,古代クルグズ族が碑文を刻んでいることも確認できた点は意義深いことであった. 本年度中には,トルコ共和国東部域で,セルジューク王朝などテュルクメン系遊牧民の遺跡や遺物を現地の博物館などで調査する機会を得た.その中には,イスラーム期のテュルク系遊牧民間でも前時代の遺跡や遺物を再利用する事例を複数確認することができた.このことは,時代的環境的変化の中でも変わらぬ遊牧民の心性や世界観を示唆する事例として,大きな意味を持つものといえよう.
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